森永製菓の逆転劇に学ぶ、ブランド再生の極意
1995年に登場した森永製菓の「板チョコアイス」。その名の通り、板チョコの形状と食感をそのままアイスにしたユニークな商品は、発売当初から話題を呼び、チョコレート好きの心を掴みました。しかし、人気商品だったはずのこのアイスは、ある時期を境に市場から姿を消します。そして数年後、再び復活した際には売上が倍増。いったい何が起きたのでしょうか?今回はその舞台裏を深掘りします。
第1章:誕生とヒットの理由
「板チョコアイス」が誕生したのは1995年。森永製菓は「夏でもチョコレートを楽しみたい」という消費者ニーズに着目し、冷凍下でもパキッと割れるチョコレートと、なめらかなバニラアイスを組み合わせた新商品を開発しました。
最大の特徴は、チョコレートの食感とアイスの口溶けのバランス。さらに、板チョコの形状を模した箱型パッケージが視覚的にもインパクトを与え、「見た目も味も板チョコそのもの」というコンセプトが消費者に強く刺さりました。
第2章:なぜ消えたのか?
人気商品だった「板チョコアイス」ですが、1998年にパッケージを箱型からフィルム包装に変更したことで、事態は一変します。見た目のインパクトが薄れ、他のチョコ系アイスとの差別化が難しくなったのです。
消費者の印象も変わり、「板チョコらしさ」が失われたことでブランドイメージが希薄化。結果として売上は低迷し、2002年春から2003年春にかけて販売休止に追い込まれました。
第3章:復活のきっかけ
販売休止後も、根強いファンから再販を望む声が多数寄せられました。森永製菓はその声に応える形で、2003年秋に「板チョコらしさ」を再構築した新商品として復活を決定。
このときの戦略は「秋冬限定商品」としての再発売。秋冬はチョコレートの需要が高まる季節であり、アイス市場にも伸びしろがあると判断されたのです。パッケージも箱型に戻し、チョコの山の数を調整して食べやすさを向上。再び“板チョコ感”を前面に押し出しました。
第4章:売上倍増の理由
復活後は秋冬限定商品として定着しましたが、「夏も食べたい」という声が増加。2020年からは通年販売に切り替えられ、これが売上倍増の大きな転機となります。
さらに、人気アニメ『進撃の巨人』とのコラボレーションを実施。パッケージをつなげると1枚の絵になる全10種類のデザインは話題を呼び、若年層を中心に新規顧客の獲得に成功しました。
また、YouTubeなどで製品のこだわりを紹介する動画を公開し、商品の魅力を可視化。SNSでの話題化も後押しし、認知度と購買意欲を高めました。
第5章:数字で見る復活の成果
「板チョコアイス」は2024年度に過去最高の売上を記録。2020年度を基準とした出荷指数では、2021年度+12%、2022年度+25%、2023年度+41%、2024年度には+55%と右肩上がりの成長を続けています。
冷菓事業の主力4商品中でも最も売上を伸ばしており、今や森永製菓を代表するブランドの一つとなりました。
第6章:ブランド再生の教訓
「板チョコアイス」の復活劇は、単なる再販ではなく、ブランド再生の成功例です。消費者の声に耳を傾け、原点回帰しながらも現代のマーケティング手法を駆使した森永製菓の姿勢は、他の企業にも大きな示唆を与えます。
・ブランドの本質を見失わないこと
・消費者との対話を重視すること
・時代に合わせたプロモーションを展開すること
これらが揃えば、かつての人気商品も再び輝きを取り戻すことができるのです。
まとめ
「板チョコアイス」が消えた理由は、パッケージ変更によるブランドイメージの崩壊。そして復活の鍵は、原点回帰とマーケティング戦略の再構築にありました。消費者の声に応え、商品価値を再定義した森永製菓の挑戦は、今後の食品業界にも大きなインパクトを与えるでしょう。
吉剛さんのように、分析と再構築を重視する視点から見ても、この事例は非常に示唆に富んでいます。ブランドの本質を見極め、データと感性の両輪で戦略を立てることの重要性が、ここには詰まっています。